この治療法の概略については、現在この治療を実施している幾つかの病院のホームページに解説されています。また、幾つかの新聞上でも紹介された様です。私の「治療の推移やときどきの想い」に記したことと重複する部分もありますが、それらの発表されているものを簡潔にまとめてみたいと思います。 この療法は、最初前立腺肥大症の治療用に開発され使用されていました。それを今から7年ほど前に前立腺癌の臨床に応用、以後装置の改良をし照射法にも研究が重ねられてきました。 高密度焦点式超音波療法(略してHIFU)とはどんな治療法か 前立腺に強力な超音波が焦点を結ぶように照射し、焦点を結んだ領域は80〜98度に加熱され、癌は焼かれて凝固、壊死する。焦点から外れた領域は温度上昇が低く抑えられ直腸などに障害を与えない。 超音波はプローブ(探触子)から照射される。これは直径3.3cmで肛門から直腸に挿入される。 1回の照射は3秒間、焦点領域は深さ3mm、幅3mm、長さ10mm。4秒間休んで次ぎの治療領域へ移動する。照射・移動・照射・移動はコンピュータで制御され自動的に行われる。 また、治療中においてもプローブからは診断用の超音波も発信し、治療領域をリアルタイムに観察しながら正確な治療が行えるようになっている。直腸粘膜冷却装置も備え安全な治療が行えるようになっている。 この治療の適応の基準 ○癌が前立腺内にとどまっている(転移していない)限局性癌であること。また、統計的にPSAの値が低い時期に治療 すると効果も高い ○前立腺内に大きな石灰化が無いこと。(1cm以下) ○前立腺の体積が50ml以下であること。 ○痔などの肛門疾患がないこと。これはプローブを挿入するため。 治療期間 手術は通常1回、手術時間は2時間半から3時間半、 私の治療を受けた病院では、通院可能な人は 1泊2日、午前中入院午後手術、翌日退院 遠距離から治療をうけに来る人は 3泊4日、入院の翌日手術、術後2日後退院 術後の尿閉を防止するため、退院時はバルーンカテーテルを留置したままにし、術後10日〜14日目に抜去する。これは治療により前立腺が腫れて尿管を圧迫するためとのこと。 なお、患者ができるなら、手術翌日に抜去し、その後は自己道尿としてもよいとのこと。 この治療の効果と合併症 平成17年5月16日の診察時に受けた説明を記します。 予想される効果 これまで6年6ヶ月間に436例の早期前立腺癌(前立腺以外に転移のない)の症例にHIFUを行った。(平成17年5月 9日現在) このうち、2回治療が63例(15%)、3回治療が11例(3%)、4回治療は1例(0.2%)あった。 術後1年以上経過した237例を集計し、治療後5年目の効果を集計した。前立腺癌に対して何も治療していない癌確定時のPSA値別に治療効果をみると(治った状態) PSAが10ng/ml 以下 93%、 PSAが10〜20 76%、 20〜30 46%、 30以上 17% となっており、PSAが低い時期に治療すると効果が高い。治療後5年目の効果の集計では77%の有効率を示した。 合併症 尿道直腸損傷2例、(尿道と直腸の間に穴があく) 手術後2〜9ヶ月頃に、約19%に尿道狭窄(尿の出が細くなる)の症状がでている。 精巣上体炎(睾丸が腫れる)が、6%にみられた。 1例のみ、術後1ヶ月間ほど尿失禁が続いた。 14例に勃起はするが精液が出なくなったとの訴えあり、また、約24%の方が勃起不全を訴えている。 この治療法の利点と問題点 利点 ○身体を傷つけない 身体への負担が少ない ○何回でも繰り返し治療できる ○放射線治療の余地も残される(放射線治療は1回しか出来ない) ○合併症が少ない ○入院期間が短い 以上の利点を持ちながら開腹して前立腺を取り除く根治的摘出手術に近い効果を上げられる。 問題点 ●健康保険が現在のところ適用されない、治療費80万円(これに消費税4万円がプラスされる)が自費。※これは10年以上も前のことで、現在は消費税も違います。 2回目は60万円(私の治療を受けた病院では)、 術後経過と注意事項 これは病院から渡されたものの要旨です。治療の推移4ページと重複します。 なお、この書類は、2003年6月30日作成とあります。私の治療は、2004年4月26日、296人目です。 術後の禁止事項 1.自転車は3ヶ月間禁止 2.飲酒は1ヶ月間禁止(1ヶ月以降もほどほどに)、3ヶ月以降は自由です。 上記2点以外は、食事、運動など特に禁止事項はありません。仕事、ゴルフ、旅行など自由です。 バルーン(ゴム製の管)留置と抜去 退院時バルーンカテーテルを抜くと、多くの場合尿の自力排出が困難となることから、手術後2週間はバルーンを留置したままにし、手術後14日目頃の外来受診時にバルーンを抜去することにしている。しかし、抜去後に再度尿閉となった場合は再度留置し、1〜2週間毎に外来受診としバルーン抜去を試みている。なお、このバルーンを留置したままでもシャワーや入浴は可能です。 また、バルーンを留置している間、どうしてもバルーン留置による膀胱刺激症状(痛みや不快感が出たり、尿の回数が多くなります)のため、バルーン周囲から尿が出てきたり、血液や膿がにじみ出てきたりすることがあります。これらのことは心配いりません。これらの予防として、肛門から挿入するボルタレン座薬を退院時に処方していますので、朝、夕に肛門から挿入して下さい。 なお、バルーン抜去後も、頻尿、排尿痛などの症状が1ヶ月程度続きます。症状が強い場合はボルタレン座薬を使用して下さい。また、尿の出始めや出終わりに血尿が出たり、白っぽいカスが出る場合がありますが、時間とともに少なくなりますので心配いりません。 術後の痔 この手術は肛門から治療用のプローブを挿入しますので、一時的に肛門が拡がり痔になったようになりますが、ほとんど1週間以内に自然に治ります。念のため、痔用の座薬を退院時に処方していますので、症状が強い場合は使って下さい。 術後合併症 術後合併症として尿道直腸ろう、尿道狭窄、精巣上体炎、インポテンスなどがあります。たとえば、治療後1〜2ヶ月後に尿道から尿が出なくなり、肛門のほうから下痢が出た場合や尿とともに空気やガスが出てきた場合はすぐに病院へいらして下さい。 あるいは、手術後3〜9ヶ月に尿の出が細くなりチョロチョロとしか排尿できない場合は主治医にその旨お伝え下さい。 また、希ですが、37度台の熱とともに睾丸がはれることがあります。このときもなるべく早く病院を受診して下さい。 インポテンスは、これまでのところ、手術前に性機能のあった患者さんの31%に認められています。ご希望の場合は、現在色々な治療法がありますのでおしらせ下さい。ただし、術後6ヶ月以降に治療を開始するのを原則にしています。 再治療 1回目の手術後6ヶ月目の前立腺生検にて前立腺に癌が残存し、かつPSAが4.0以上に上昇してきた場合は、患者さんの希望により2回目のHIFUを施行しています。ちなみに、これまでの4年9ヶ月間に207例の本治療を施行してきましたが、2回施行した症例は14例、3回施行したのは2例です。(平成17年5月9日現在の数値は上記) なお、2回目の治療として、根治的前立腺全摘術あるいは放射線療法など他の治療法への変更は可能です。この場合は遠慮なく主治医にお伝え下さい。 ただし、前立腺に癌細胞が認められないにもかかわらず(術後の生検にて前立腺に癌なし)、PSAが4.0以上に上昇してきた場合は、リンパ節あるいは骨への転移がある可能性があるため、これらの有無を検査後、転移が認められた場合はホルモン療法への変更が必要です。この場合は、根治的全摘術あるいは放射線療法などの適応もありません。 HOMEPAGEへ がんのトップページへ |