還暦つれづれ草
自販機の下を覗き込む少年
能登に向かう途中、北陸高速道の徳光サービスエリアで ひと休みした。カミさんがトイレに行っている間、
私は、両側に自動販売機が並ぶ建物内の通路に立って待っていた。すると小学4・5年くらいの少年が、1台
の自販機の前に這いつくばう様にして、自販機の下を覗き込んだ。そして自販機と床の狭い隙間に腕を差し
込んで小さい何かを拾い出した様子だ。
私は初め、少年がジュースか何かを買おうとして小銭を落としてしまったのだと思い、見つかって良かったと
思っていたのだが、それは私の思い違いだったようだ。少年は、その隣や向かい側の自販機の前でも、床に
這いつくばる様にして下を覗き込み、更に10台以上ある自販機すべてを対象にしていることが判った。
ときには、釣り銭の取出口に指を入れてみたりしている。周囲の人の目を全く気にするふうはなく、ひたすら
這いつくばる様にして自販機の下を覗き込むその顔は、真剣そのものと云うのか何かに取り付かれたといった
感じさえする。
表の自販機を見に行ったと思うと、また戻ってきて執ように覗き込むのだった。私の見ている前では3回ほど
拾得してホコリを払う様子が見られた。少年はこのサービスエリアの上り線側でも同じ事をして下り線側にやっ
て来たのだろう。上がり線側は民家に近いが、下り線側は向かいが海だからだ。
これを見ていて少し前のことを想い出した。山に登るとき 朝早く自動販売機の沢山置いてある駐車場で同行
する人を待ち合わせた事があった。 自販機から少し離れて車を停めて待っていたら、年輩の人がホウキとチリ
トリを持って自販機の周囲などの掃除を始めた。そこへ散歩と思われる老人がやって来て、自販機の釣銭取
出口に指を差し込んで端から順番に廻りだした。すべての自販機を廻り終えると、その周囲に目を走らせた後
何処かえ消えて行った。その歩き方や動作が、とても年老いたことを感じさせて寂しい気持にさせられた。
少年の行為も老人の行為も、よくあることなのだろう。特に子供の頃はこの様に執ようにはしないまでも、釣銭
取出口に指を入れて見たり、下を覗き込む様なことはよくあることだ。ことさらどうのと云うことではないのだろう。
厳格に言えば、拾得物は交番に届けると云うことになるのだが、50円や百円を拾ってわざわざ交番へ届ける人
はいない。真面目に育てられた小学1年の新入生なら交番に届けるかも知れないが
今の世の中ではどうだろう。
しかし、長い人生経験のある人となると、何かそうしなければならない事情があるのかと、その老人の置かれ
ている状況に思いを巡らせてしまう。でも、人は見かけだけでは判りませんねえ。
(’06年12月28日)
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